世界中のあらゆる文字や記号を一望できるという「世界の文字と記号の大図鑑 ―Unicode 6.0の全グリフ」。
なんとUnicode 6.0の全グリフが1冊の本に掲載されており、実はこの本、発売前から何やらすごい文字本が出る…という噂で話題となっていました。
ドイツで出版されたdecodeunicodeが原書であり、日本版の監修はタイポグラフィ書籍であるタイポグラフィ・ハンドブックの小泉 均さんが担当されています。
Photo by Shinya Hirose(廣瀬真也)
decodeunicodeの日本版が世にでるまで
今回監修者の小泉さんに簡単ながら取材をさせていただきました。本レビュー記事についても監修いただいています。
まず、とにかく版権の交渉やコスト面が大変だったとのこと—様々な困難を乗り越えてようやく出版することができたそうです。
ドイツの原書の方は、特に漢字であるCJK (Chinese, Japanese, Koreanの頭文字をとってCJKと言う) の編集処理が全体的に甘かったため、とにかく改善をしたかったとのこと。また間に入っているカラーページは、著者によるピックアップ文字となっていますが、日本版ではコード表に近いページに差し込まれており、一部日本人向けに原書とは違う文字が選ばれています。
また本書は単純に翻訳しただけの本ではなく、日本語向けに独自の編集がなされています。
例えば原書の漢字には、中国の字形である細明朝体とゴシック体(サンセリフ体)が使われていましたが、日本版では日本で使われている漢字においては、平成の大改刻を行った大日本印刷の「秀英明朝ボールド」が使われています。
日本人にとって親しみやすいだけでなく、ゴシック体よりも明朝体のほうが、文字の差異が認識しやすいためです。また秀英明朝の太字が使われているため、日本で使われている漢字かどうかがすぐに分かりますね。
ゴシック体(サンセリフ体)だと、叱 (U+53F1) と𠮟 (U+20B9F) の区別が付きにくい
そもそもUnicode(ユニコード)とは?
本書の副題にある「Unicode 6.0の全グリフ」のUnicode=ユニコードとは一体何でしょうか。
ユニコードとは文字コードの業界規格です。年々アップデートされており、本書は2010年に発表された6.0に準拠しています。
このユニコードによって、我々が普段使う全ての文字には固有のナンバリングがされ、そのコードによってコンピュータ上では文字が認識されています。
例えばアルファベットの“A”には“U+0041”が振り分けられている
実は身近な存在であるユニコード
ユニコードと聞くと、どこか専門的で難しいと感じてしまうかもしれません。
実際ユニコードをそこまで意識しなくても、もちろん生活にも支障はありませんが、(๑ºдº๑) などのバラエティ豊かな顔文字のパーツ素材となっているものは、ユニコードが存在しているからなのです。
また日本独自の文化であるとも言えるEmoji(絵文字)😀 がユニコードに採択されるなど、実は陰では身近な存在と言えます。
将来は絵文字が入ったURLが存在するかも?
ワールド・フォント、グローバル・フォント
OpenTypeフォントの一般化により、フォントデータに収録できるグリフ数が大幅に増え、1つのフォントデータで多言語対応できるようになりましたが、ユニコードには10万文字以上も定義されているため、1つのフォントでは対応しきれません。
本書では5万以上を収録するArial Unicodeや、フリーフォントのCodeシリーズ、URW++社のNimbusなどが紹介されており、各ページには使われているフォント名が示されています。
ユニコードから文字を直接入力するには?
本書に掲載されている全ての文字にはユニコードが記載されているので、そのコードを入力すれば、実際に文字を打つことができます。フォントがその文字データを持っていることが前提ですが、使える文字や記号を知れば、デザイン作業に幅が出ることは間違いないでしょう。
macOSの場合は、Finderの [編集] → [文字ビューア]から直接コードを入力することで、任意の文字を表示することができます。
Windowsの場合は、Altキーを押しながらXキーを押すと直接入力することができます。
誰もがカジュアルに楽しめる文字本
“デジタル・タイポグラファー必携の書”と謳っている通り、フォントや書体、文字の関係者にとっては言うまでもなく有益な本ではありますが、実は一般の人でもカジュアルに楽しめる本です。収録されているデジタル化された全109,242文字を一度に閲覧できるのは非常に魅力的です。
百聞は一見にしかずということで、本書の一例を紹介します。
ツに半濁音?…アイヌ語で使われるそう
月の左下が欠けている不思議な“月”
日本の氏名では、微妙に異なる様々な“龍”が使われている
いろいろな“くにがまえ” 日本独自の言い方だそうで、中国では意味が異なる
お寿司屋さんを思い出してしまう“さかなへん”
将棋やチェス、麻雀にドミノ、トランプなど絵文字 (emoji)も
割とリアルな、う○ちの絵文字も!
時間をかけて見れば見るほど「こんな文字があったのか!」と常に新しい発見があります。皆さんもぜひ、面白い文字や記号を発見してみてください。
研究社『世界の文字と記号の大図鑑』―Unicode 6.0の全グリフ
http://webshop.kenkyusha.co.jp/book/978-4-327-37736-6.html
初稿:2014.10.20